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Supremeサンプリング史|無断使用から公式コラボへ変わった9つのケース
この記事の要点
- Supremeの引用は「無断で使う→警告を受ける→数年後に公式コラボへ」という反復パターンをたどってきた
- Louis Vuitton(2000年)は訴訟ではなく警告状。Supreme自身が「lawsuit」と表記したことが誤伝の source になっている
- Box Logoの元になったBarbara Kruger本人は一度も法的措置を取らず「I don't own a font」と語っている
Supremeのデザイン史は、引用の history でもある。既存の広告写真、映画のスチル、企業のロゴ、現代美術の作風——それらを自分たちの文脈へ移し替えることで、このブランドは形を作ってきた。
この手法は1990年代から批評の対象になってきた。グラフィックデザイナーのKevin Lyonsが1996年にAIGAの機関誌へ寄せた論考「Cease and Desist」は、ストリートウェアの引用文化を正面から論じた同時代の記録で、James Jebbia本人へのインタビューも収められている。そこでJebbiaはこう述べている。
大手シューズ会社が、小さく先鋭的な会社を相手に積極的に訴訟を起こす一方で、ニューヨークの遊び場へビデオカメラを送り込み、子どもたちがどう服を着てスタイルを作っているかを観察している——そういう状況で、所有権を判断するのは難しいと私は思う。
ヒップホップが既存のレコードをサンプリングして新しい音楽を作ったように、ストリートウェアは既存の図像をサンプリングして服を作った。その最も象徴的な実践者がSupremeだった。
この記事では、報道と当事者の発言で確認できるケースを時系列で整理する。注目すべきは、多くの事例が「無断で使う→権利者から警告を受ける→数年後に公式なパートナーとして組む」という同じ弧を描いていることである。
1. Barbara Kruger — 訴えなかった原作者
すべての出発点はBox Logoである。赤地に白のFutura Heavy Oblique——この様式は、現代美術家Barbara Krugerが1980年代から用いてきた作風に由来する(詳細はブランド名とロゴの由来の記事)。
作風の借用にとどまらない事例もある。1997年、Supremeはクルーガーの代表作《Untitled (I shop therefore I am)》の図像構成をほぼそのまま用い、文言だけを差し替えたTシャツを販売した。許諾を得た形跡は報じられていない。
しかしKrugerは、一度も法的措置を取っていない。彼女は自分の立場をこう説明している。「I don't own a font(私はフォントを所有していない)」。2018年のDazedのインタビューでは、さらに踏み込んでいる。
Supremeに対して、私はまったく問題を感じていない。
2013年、Supremeが別のブランドを商標権で訴えた際、Complexがコメントを求めると、彼女は本文のないメールに「fools.doc」というファイルを添えて返信した。中身は、自分の作風を借りた者同士が権利を争う状況を「ばかげた茶番」と切り捨てる一文だった。
そして2017年、Kruger自身がニューヨークで《Untitled (The Drop)》というポップアップを実施し、スケートデッキやTシャツを販売している。引用された側が、引用した側の手法で応答したことになる。
2. Louis Vuitton(2000年)— 「訴訟」ではなく警告状だった
2000年、SupremeはLouis Vuittonのモノグラムを模した総柄のスケートデッキなどを発売し、約2週間で回収した。
ここで正確を期したい点がある。この件は長く「LVがSupremeを訴えた」と語られてきたが、実際に裁判所へ訴えが提起された記録はない。送られたのは差止を求める警告状(cease and desist)である。誤解の source は皮肉なことにSupreme自身で、当時の自社サイトに「訴訟により2週間で回収」と表記していたことが伝わったものだ。在庫の処分をめぐる逸話もいくつか伝わっているが、一次資料の裏付けはない。
その17年後の2017年、両者は公式に手を組む。LVメンズのアーティスティック・ディレクターだったKim Jones主導のコラボレーションで、2017年秋冬のパリ・コレクションで発表された。Jonesは学生時代、ロンドンのSupreme取扱店で荷解きのアルバイトをしていたと語っている。
2000年に警告状を受けたモノグラム流用から17年、2017年に両者は公式コラボレーションを実現した。当サイトには2017年のLVコラボを64アイテム収録している。
詳しくはLouis Vuitton × Supremeの記事で書いた。
3. Kate Moss — 貼られた広告を、そのまま服にした
1994年、ニューヨークの街頭にあったCalvin KleinのKate Moss広告に、Supremeのボックスロゴのステッカーが貼られるという現象が起きた。開店直後のことである。
2004年、Supremeはその「ステッカーが貼られた状態の広告写真」をTシャツにした。10周年記念のアイテムだった。複数の媒体はCalvin Klein側が法的措置を取ったと伝えているが、訴訟記録は確認されていない。警告どまりだった可能性がある。
そして2012年、Supremeはケイト・モス本人を起用した公式キャンペーンを実現する。撮影はAlasdair McLellan。豹柄のコートに白のBox Logo Teeという、あの一枚である。
2004年の無断使用から8年、2012年に本人を起用した公式キャンペーンが実現した。Supreme史上最も知られたフォトTシャツのひとつ。
4度にわたる登場の経緯はKate Moss × Supremeの記事にまとめている。
4. セサミストリート(2005年)— エルモからカーミットへ
2005年、SupremeはRaekwonを起用したフォトTシャツを発表した。画面には「Tickle Me Elmo」の人形が写り込んでいた。Sesame Workshopから警告状が届き、販売は即座に中止される。
ところが3年後の2008年、SupremeはJim Henson's Muppet Workshopと公式に組み、カーミットを起用したTシャツを発表した。撮影はTerry Richardson。同じ制作元の別のキャラクターで、今度は正規のパートナーシップとして。
2005年にセサミストリート側から警告を受けた3年後、2008年に同じ制作元と公式に組んで生まれた一枚。当サイトの名作セレクションにも収録している。
5. NCAA(2007年)— 17年越しの正規化
2007年、Supremeは大学のロゴを改変した総柄のバーシティジャケットを制作した。ジョージタウン、シラキュース、ノースカロライナなどのマークが並ぶ一着である。NCAAから警告状が届き、ごく少数が出荷された段階で全注文がキャンセルされた。
そして2024年11月、SupremeはMitchell & Nessを介してNCAAと公式にコラボレーションする。取り上げられたのは、ジョージタウン、マイアミ、ノースカロライナ、シラキュース——17年前に警告を受けたときと、ほぼ同じ顔ぶれだった。
2007年に警告を受けた大学ロゴの企画は、17年後にMitchell & Nessを介した公式コラボとして再び形になった。当サイトには2024年FWのNCAA関連を7アイテム収録している。
6. Nike — 「Fuck Nike」から翌年のDunkへ
2001年、SupremeはNikeのロゴ書体を模して「Fuck Nike」と書かれたTシャツを制作した。デザイナーのGeoff HeathはComplexに、Jebbiaから「あのNikeの書体でFuck NikeのTシャツを作れるか」と言われたと証言している。背景には、NikeがSBのラインを立ち上げる際にSupremeに声をかけなかったことへの反発があったとされる。
Nikeが法的措置を取ったという報道はない。そして翌2002年、両者は最初のNike SB Dunkのコラボレーションを発表する。以降、SB Dunkは両者の関係を象徴するラインとなった。
2001年の「Fuck Nike」Tシャツの翌年、両者は最初のSB Dunkコラボを発表した。以降も断続的にリリースが続いている。
7. Taxi Driver(1994年)— 最初のTシャツをめぐる不明点
1994年、Supremeが最初に作ったTシャツは、映画『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロ演じるトラヴィス・ビックルの画像に、小さなボックスロゴを添えたものだった。
この当時に権利処理が行われていたかどうかは、公表資料からは確認できない。一方で、2014年に発売された20周年の復刻版には「Columbia Pictures」のクレジットが入っており、少なくともこの時点では正規のライセンスを得ていることがわかる。
8. 現在は正規ライセンスが基本になっている
2010年代以降、映画・音楽・アートを扱うSupremeの企画は、権利者との正式な取り決めに基づくものが中心になっている。
2017年FW。Universal Picturesとの公式コラボ
2018年SS。UNDERCOVERを交えた三者による公式企画
2015年SS。本人合意のフォトTシャツ
Raekwon(2005年)、Mike Tyson(2007年)、Lou Reed(2009年)、Morrissey(2016年)と続くフォトTシャツのシリーズも、本人や権利者の合意に基づく撮り下ろしである。Nan Goldin、Mike Kelley、Raymond Pettibon、Damien Hirstら現代美術家との企画も同様だ。
もっとも、法的な指摘が完全になくなったわけではない。2019年には迷彩柄の著作権をめぐって権利者から提訴され、翌2020年に和解している(条件は非公表)。2023年10月にはハードコアバンドSick of It Allのロゴをめぐる訴訟が提起されており、本稿執筆時点で判決や和解は公表されていない。
9. 引用される側から、訴える側へ
ブランドが巨大化すると、Supremeは自らのマークを守る立場にもなった。
2013年、SupremeはMarried to the MOBというブランドを商標権侵害などで提訴し、1,000万ドルを請求した。約3か月後に非公開の条件で和解している。この提訴がきっかけで、冒頭のKrugerの「fools.doc」発言が生まれた。
2021年には、Supremeの商標を各国で先取り登録して「合法な偽物」を展開していた業者に対し、ロンドンの刑事法廷が主犯格へ懲役8年を言い渡した。判事はその手口を「Supremeのアイデンティティのあらゆる側面を乗っ取り、剽窃した」と評している。
引用から始まったブランドが、引用される側になった。この反転そのものが、Supremeというブランドの30年を要約している。
アーカイブで実物を確認する
この記事で触れたアイテムの多くは、当サイトのアーカイブに収録している。年代とシーズンから、当時どんな商品が並んでいたのかを辿ることができる。
「この記事のアイテム」の現在の2次流通価格をチェック:
出典
- Complex: Kevin Lyons「Cease and Desist」(AIGA, 1996) の再掲とJebbiaの発言
- The Fashion Law: 実際には起きなかった2つの有名訴訟(LVの件)
- The Fashion Law: The War Over Supreme
- Dazed: Barbara Kruger インタビュー(Performaのポップアップ)
- Highsnobiety: Louis Vuitton × Supremeの経緯
- Highsnobiety: Supremeのフォトシリーズ史
- Complex: 「Fuck Nike」Tシャツから初のDunkコラボへ
- Highsnobiety: 『Supreme Copies』著者インタビュー
- Hypebeast: Scarface コラボ(Universal Pictures)
よくある質問
Q. SupremeはLouis Vuittonに訴えられたのですか?
A. 訴訟ではない。2000年にモノグラムを模したデッキ等を発売し、Louis Vuittonから差止を求める警告状(cease and desist)を受けて約2週間で回収した。裁判所へ訴えが提起された記録はなく、「訴訟」という表現はSupreme自身の当時のサイト表記に由来する。17年後の2017年に公式コラボが実現した。
Q. Box LogoはBarbara Krugerに訴えられましたか?
A. 訴えられていない。Kruger本人は一度も法的措置を取らず、「I don't own a font(私はフォントを所有していない)」「Supremeに対してまったく問題を感じていない」と語っている。2017年には自らSupreme型のポップアップを実施した。
Q. Supremeのサンプリングは今も無断で行われていますか?
A. 2010年代以降の映画・音楽・アートの企画は、権利者との正式な取り決めに基づくものが中心。Scarface(Universal Pictures)、Public Enemy、Neil Youngなどが該当する。ただし2019年の迷彩柄訴訟(2020年和解)、2023年提起のロゴをめぐる訴訟など、法的な指摘が皆無になったわけではない。
Q. 無断使用したブランドと後から公式コラボした例はありますか?
A. 複数ある。Louis Vuitton(2000年に警告→2017年に公式)、セサミストリート(2005年に警告→2008年にカーミットで公式)、NCAA(2007年に警告→2024年にMitchell & Ness経由で公式)、Nike(2001年の「Fuck Nike」Tシャツ→2002年に初のSB Dunk)など、同じ弧を描いた事例が繰り返されている。